
「再生可能エネルギーで日本を変える」
そんな期待を背負っていた大規模な洋上風力発電プロジェクト。
ところが2025年8月、三菱商事が秋田県・千葉県の洋上風力発電から撤退するという衝撃のニュースが飛び込みました。
このニュースを聞いて「お金はどうなるの?」「地元の計画は?」「日本の再エネ目標は大丈夫?」と疑問に思った人も多いはず。
この記事では、その疑問にひとつずつ答えながら、複雑に見える出来事をわかりやすく解説していきます。
1.洋上風力計画に何が起きたのか?

撤退の対象となったのは、秋田県(能代・三種・男鹿沖/由利本荘沖)と千葉県(銚子沖)の3つの海域。
合計で約1.76GWという、日本のエネルギー政策でも中心的な位置づけだった計画です。
しかし三菱商事は、2025年2月に事業性を再評価し、**「採算が取れない」**という結論を出しました。
そして8月27日に正式に撤退を発表しました。
ここでポイントは、「工事が始まる前」だったということ。
つまり「紙の上の計画」から降りた段階です。
だからこそ、金融機関や国民への直接的な借金リスクは避けられたともいえます。
洋上風力開発と政治汚職という闇
2021年の洋上風力初入札で三菱商事が「総取り」した背景に、政策形成の問題があったと指摘されています。
同時期、国会議員・秋本真利氏が 日本風力開発という企業から賄賂(約6,100万円)を受け取り、議会で有利な質問をした疑いで逮捕されています。
この企業は洋上風力関連事業に関わる団体でもあり、政治と業界が近すぎた構図が明らかになりました。
信用と制度へのダメージ
公正な競争を信頼するのが前提の再エネ政策ですが、この事件で制度への信頼が揺らぎました。
政治と企業の癒着が制度設計に影を落とす構図として、再エネ普及の障害となりかねない問題となってしまいました。
2.洋上風力撤退の理由|なぜ採算が崩れたのか?

ここで専門用語を使いながら整理してみます。
- CAPEX(資本的支出):建設費。風車や海底ケーブル、基礎工事などにかかるお金です。
- OPEX(運営費用):運転・保守に必要なお金。港湾維持やメンテナンス、漁業調整も含まれます。
- IRR(内部収益率):投資でどれくらいの利益が見込めるかを示す指標。
当初の想定では、これらに十分な利益が出る見込みでした。
ところが、世界的に鉄鋼や部材の価格が高騰。
さらに円安や金利上昇が追い打ちをかけたその結果、「投資しても赤字になる」ことが明確になったのです。
つまり、数字上の“夢物語”が現実に耐えられなかったというのが今回の本質です。
3.地元企業が投資した出資金や保証金はどうなるの?

出資した地元企業を知る方は、ここがいちばん気になる部分でしょう。
- 保証金(Bid Bond):三菱商事らが国に預けていた200億円は没収されます。ルール上、撤退したら返ってきません。
- 開発費:調査や環境影響評価に投じた費用は、各社の損失になります。三菱商事はすでに524億円を減損処理済み。
- 共同出資者(中部電力):170億円の損失見込みを公表しました。
要するに「企業がお金をかぶる仕組み」で、一般国民や金融機関が直接損をすることはありません。
4.地域経済・地元への影響

秋田や千葉では、このプロジェクトに合わせて港湾の改修やサプライチェーン誘致を進めていました。
地元も「雇用や経済活性化につながる」と期待していただけに、撤退はショックです。
しかし政府は「速やかに再公募」すると表明しており、地域にとって完全な挫折ではありません。
むしろ次の事業者に期待をつなぐ「小休止」ともいえるでしょう。
5.日本のエネルギー戦略への影響

日本は2030年までに10GW、2040年までに45GWの洋上風力導入を目標としています。
今回の撤退は計画にとって痛手ですが、「もう無理」というわけではありません。
政府はすでに以下のような制度改善を検討しています。
- 運転期間を延長(30年→40年):投資回収がしやすくなる
- 入札制度を見直し:過剰な価格競争を防ぐ
- サプライチェーンの国内整備:安定した供給とコスト抑制
つまり「一度つまずいたけど、やり方を修正すればまだ間に合う」という段階です。
6.今後の見通し

再公募が始まれば、海外のエネルギー大手(ドイツのRWEやイギリスのBPなど)が参入してくる可能性があります。
彼らは資金力も技術も豊富で、日本市場への関心を失っていません。
また、日本企業にとっても、制度改善が進めば再挑戦のチャンスがあるでしょう。
まとめ 撤退は“終わり”ではなく“見直し”の始まり

- 三菱商事は「採算が合わない」と判断し撤退
- 200億円の保証金は没収、共同出資者も損失
- 地域は痛手を負ったが、再公募で再び動き出す可能性大
- 日本の洋上風力目標はまだ達成可能で、制度改善がカギ
撤退というニュースはショッキングですが、裏を返せば「制度をより現実的に直すチャンス」でもあります。
今後の再公募と制度改革が、日本の再エネの未来を左右していくでしょう。
最近、コロナウィルスの「ニンバス」という新たな亜種の感染が広がっています。
詳しく解説していますので、こちらからご覧になってみて下さい。

コメント